いろーんな「こうかい」展開中!
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どうしたことか、最近子供に懐かれた。
正確には、去年の秋口ぐらいに突然声をかけられて、オヤツだといって菓子を渡されたのが最初だった。
道場からの帰り道にある日突然現れた金髪の子供は、それから頻繁に顔を出し始めた。
出会った時には保育園児だった子供も、年が明けて少ししたら小学生になった。それと同時にゾロは小学校を卒業して、中学生になったのだが、それがまた気にくわない、と大暴れしたのは記憶に新しい。
出会った時のこともあり、あれからサンジはゾロの道場での練習を律儀に覗き見ているらしく、時々鋭い感想などを話しかけてくることもあった。
子供の素性は道場で聞いてみたらすぐに分かった。最近近所に出来た洋食屋の息子らしく、本人が名乗った通りサンジという。生まれは外国で両親も外国の人だが、育ちは日本という少年らしい。両親共に日本に店をひらいた今は、もしかしたら帰化しているのかも…とこれはよく意味が分からないがそんなことまで話てくれた。
つまりサンジという子供は、日本育ちの今年小学校に上がったばかりの五歳児らしい。早生まれな為に躰が小さい、と本人は気にしているのだと言っていた。
そんなことを気にする五歳児。
ゾロにしてみれば、冗談だろうとしか思えないのだが、現実だから困る。最近の子供はませている。それをしみじみ実感した。
この際自分もまだ子供だということは横に置く。
サンジは大抵ゾロが道場から帰るのを待ち伏せして、細い通りを一緒に歩いて戻る。道場は住宅街から少しだけ外れた山際にあるので、大抵は住宅街に入った辺りでよく待っていた。
そこから小道を一緒に歩いて帰るのだ。
小道が終わる場所は大通りに繋がる地点で、すぐ先にサンジの親がやっている店が出てくる。だからゾロはいつの間にか毎日のようにサンジをその店まで連れて行く。そうすると自分の家まで早く帰り着くのが不思議だったが、それは良いことだから問題なし。
何が楽しくて毎日毎日遅い時間を、まだ小さい子供が自分を待つのか。
尋ねても、子供はフフンと偉そうに笑うだけだ。そして最後にこう言う。
「見ててやるって約束したからな」
約束をしたのは事実だし、約束というものは守るのが当然だから、いつもゾロは「そうか」と言って終わる。
その約束こそ、一方的にこの子供がいきなり言い出したことだというのは、頭から消えているらしい。
あれは夕暮れ時、不意に金色の髪のこの子供が現れて宣言したのだ。「ガンバレ」と。頑張ったらご褒美をやるのだ、という真っ正直な宣言は、不思議とゾロの心に響いた。
子供の戯れ言などとは口が裂けても言わない。そんな言葉ではなかったから、ゾロは受けた。見ていろと、そう告げたのだ。
まあ、それ以外はめちゃくちゃ口の悪い、ただのませたクソガキだとは思っているのだが。
しかしそんなゾロでも、最近少し気になっていることがあった。
日暮れの時間だ。
最近日暮れが随分と遅くなってきた。だから自分もついつい熱が入って練習時間が延びている。明るいからいつまでも道場に篭もってしまうのだ。
けれど、その遅くなる時間、サンジはあの小道で待っている。
それはちょっと物騒なのではないか、さらに言えば、少し可哀想な気がしてしまったのだ。こ煩いガキが何して遊んでいようが、今まで気にもしなかったが、サンジが待っているのが自分だと分かっているからこそ、気になってしまう。
薄暗くなる時間まで小さな子供が一人でいるのも、絶対に良くないはずなのだ。それは道場の子達に対してコウシロウが口酸っぱく言っているのを聞いているから余計感じる。
正直めんどくさい。
ガキとはいえ、いっぱしの男の子。口は悪い、足癖は悪いし、小学生のくせにこれが結構強烈な蹴りを放つ。元々のバネがいいのだろう。
そういう意味ではあんまり心配はしていないのだが、何しろあの金髪は目立つ。
最近は一緒にいるのを良く見られているからか、道場でもあの金髪の男の子は可愛い可愛いと耳にタコができるほど聞かされているので、余計気になってしまう。
かといって、サンジに待つなと言っても無駄だ。
それは何度か言ってみたが、ことごとくあの小さな鼻でフフンとやっぱり笑われて終わったからだ。
後で分かったが、その仕草は洋食屋の主人であるサンジの親の仕草そのものだった。
小学生になって数ヶ月。そろそろ学校で友達なんかも出来た頃だろう。学校が終わって遊びにいくなんてことも、し始めてもおかしくはない時期だ。
それでも待っているのは、もしかしたら剣道に興味があるからか? と一応珍しくやってみるか? と誘ってもみたのだ。だが答えは
「死んでもやだ。むさ苦しい」
という万死に値する言葉だった。
さすがにムッとしたゾロだったが、確かに似合わないような気もして、それきりその話をするのは止めた。
サンジは両親の姿を見て、将来はコックになるのだと言っていた。多分それが似合いだろう。だからゾロは「ふーん」と言いつつ、それがいいと軽く答えていた。食いっぱぐれないのは、本当にいいことだと思う。
ゾロは強くなりたいという目標があまりにも高くあり、それ以外はどうでもいいと思っている。というより、そうとしか思えない自分に最近気付いていた。だからきっと、食いっぱぐれ率が高いだろうと自覚した所だったので、よりそんな風に思ったのかもしれない。
ゾロがサンジの話を肯定した時、子供はとても満足そうに頷いた。
そうだろ、そうだろ、と今にもゾロの頭をなで回しそうな感じだった。
やたら嬉しかったらしい。
そうやっていつの間にか、当たり前のように並んで歩くのが日常になってしまっていた。
誰も疑問も挟まないのかと、今更ゾロは気付いたが、事実誰も何も言わないのだからきっとそういうものなのだろう。
ちなみに、こうやってなんでもかんでも適当に納得するから、ゾロは日常から取り残されているのだが本人はまったく気付かないので平和だったりする。
「ゾロ!」
甲高い声が降ってくる。
何故この子供は必ず塀の上に立つのだろうか。危ないとは欠片も思わない見事なバランスで立つ子供は、ふんぞり返っている。
「おう。人ん家の塀だぞ、下りろ」
これが毎回の会話だ。
でもすぐにはサンジは下りない。
「今日はゾロ凄く頑張ってたな。試合…勝ってた」
「道場の仲間相手だからな。あんなもんだろう。今度正式な大会があるからな、もうちょっと気合いいれねぇと」
「大会があるのか?」
「ああ」
「見に行く」
「あ?」
振り仰げば、とても真面目な顔をした子供がしゃがみ込んで見下ろしてきていた。意外に近くに顔があってびっくりした。
「ゾロが頑張っているのは、ちゃんと見るんだ。…ご褒美やるんだからな」
最近、この子供は小さいながらも簡単なオヤツを作る。
甘い柔らかなお菓子は、ご褒美と称して試合などの後にゾロに振る舞われていた。まだまだ不格好なそれは、子供が作るにしては上出来でも、実際は大したものではない。
けれどゾロはそれを、いつも必ず食べていた。
優しい味は、動いた後のゾロにいつも優しく寄り添ってくれるようで、気持ちが落ち着くのだ。
「そうだったな」
思わず笑った。自分でも意識していなかった笑みに、子供は一瞬目を見開き、ふいっと横を向くと唇を尖らせた。
片目を綺麗に覆った髪が、子供の表情を隠してしまう。けれど、首筋が少し赤い。
ひらりとサンジの身体が軽々と宙に舞った。
反射的に手を出したゾロの腕の中に、小さな躰が吸い込まれるように下りてきた。
軽々と抱き上げると、サンジは真っ青な瞳をキラキラと輝かせながら、ゾロを見下ろしてきた。
「おれは男だからな! アムールには、ちゃーんとしてやるんだ! それが男だ」
「………あむる?」
「この際、クソミドリには目をつぶってやる! だから頑張るんだ。おれが応援してやる」
「なんか良く分からんが、応援してくれるんだな。ありがとよ」
「ゆうしょーするんだろ」
「当然だな。それくらいは取らないと強くなれねぇ」
抱き上げたまま、そう言うとサンジは手を伸ばしてきた。
は?と目を見開いたゾロの前で、サンジは不自然な格好のまま、じたばたともがいてゾロの首筋へと手を絡めようとする。
暴れるので合わせるように抱き込もうとすると、サンジはがしっと両足を開いてゾロの胴へ巻き付けると脅威のバランスでしがみついて、ゾロの顔を両手で掴んだ。
「えーっと、ガンバレのおまじないだ!」
高らかに宣言すると、子供は素早くゾロへと抱きつき、その顔をゾロに寄せた。
目を丸くしたままのゾロへ、子供は真剣な顔で目を閉じ、力任せにゾロに頭突きのように顔を突っ込んだ。
ガチっと派手な音がして、ゾロの口にサンジがぶつかった。
あまりの衝撃と痛みに仰け反りかけたゾロは、それでもサンジがいるからと踏ん張ったが涙目でよろけてその場に蹲った。
しがみついた子供を思わず抱きしめたので落とすことはしなかったが、痛みは生半可なものではない。
その間も、子供はしがみついてて離れない。
その場に尻餅をついて、身体を安定させたゾロは、力任せに子供を引き離した。
痛くてもう言葉もない。口の中が切れたのか血の味がする。
「いってーな! なにするんだよ、ゾロ!」
それはこっちのセリフだ! と言いたかったが、ゾロは口を開けない。
開いたら大惨事になりそうだった。
「どうだ! これでもう大丈夫だからな。今度の大会はゆーしょーだ!」
へへん、と胸を張る子供はどこまでも偉そうで無邪気だ。一瞬殴り飛ばしたくなったが、どうにもそうもできない。
こっちを見るサンジの顔に、どこか不安そうなものがあることが見えるからだ。どうしてか分かるからだ。
あー、もう。
ゾロは大きく息をつくと、頷いた。とにかく口が痛くて声は出せない。
頭突きの何がおまじないなのかは分からないが、もうなんでもいいから帰ろう、帰そう、そうしよう。
ずきずきする口を押さえながら、ゾロはゆっくりと立ち上がると、口を押さえてない方の手を差し出した。
サンジは満足そうに手を伸ばしてその手を握る。
そうして問題は何も解決しないまま、いつものように仲良く2人は歩いて帰る。
ちなみに、それが実は2人の初キッスで、しかも2人してファーストキスだったと気付くのは、それから15年後のことだった。
☆ ☆ ☆ ☆
旅行記ちょっと横において、今日はキスの日ってことで、なんとなく前に書いた逆年の差の2人を。
キスというより、ただの度付き合いですが。
こんな風に自覚イケイケの子供の方が進んでる気がする今日この頃。
突発すぎるので、また後日改訂したりするかもです(笑)
旅行記はまた明日から(笑)
本日はこれまででーす!
ブログ拍手ありがとうございます。
拍手いただけると、凄く嬉しいのは旅模様が楽しかったからでしょうか。
一押し、本当にありがとうございましたーvv
正確には、去年の秋口ぐらいに突然声をかけられて、オヤツだといって菓子を渡されたのが最初だった。
道場からの帰り道にある日突然現れた金髪の子供は、それから頻繁に顔を出し始めた。
出会った時には保育園児だった子供も、年が明けて少ししたら小学生になった。それと同時にゾロは小学校を卒業して、中学生になったのだが、それがまた気にくわない、と大暴れしたのは記憶に新しい。
出会った時のこともあり、あれからサンジはゾロの道場での練習を律儀に覗き見ているらしく、時々鋭い感想などを話しかけてくることもあった。
子供の素性は道場で聞いてみたらすぐに分かった。最近近所に出来た洋食屋の息子らしく、本人が名乗った通りサンジという。生まれは外国で両親も外国の人だが、育ちは日本という少年らしい。両親共に日本に店をひらいた今は、もしかしたら帰化しているのかも…とこれはよく意味が分からないがそんなことまで話てくれた。
つまりサンジという子供は、日本育ちの今年小学校に上がったばかりの五歳児らしい。早生まれな為に躰が小さい、と本人は気にしているのだと言っていた。
そんなことを気にする五歳児。
ゾロにしてみれば、冗談だろうとしか思えないのだが、現実だから困る。最近の子供はませている。それをしみじみ実感した。
この際自分もまだ子供だということは横に置く。
サンジは大抵ゾロが道場から帰るのを待ち伏せして、細い通りを一緒に歩いて戻る。道場は住宅街から少しだけ外れた山際にあるので、大抵は住宅街に入った辺りでよく待っていた。
そこから小道を一緒に歩いて帰るのだ。
小道が終わる場所は大通りに繋がる地点で、すぐ先にサンジの親がやっている店が出てくる。だからゾロはいつの間にか毎日のようにサンジをその店まで連れて行く。そうすると自分の家まで早く帰り着くのが不思議だったが、それは良いことだから問題なし。
何が楽しくて毎日毎日遅い時間を、まだ小さい子供が自分を待つのか。
尋ねても、子供はフフンと偉そうに笑うだけだ。そして最後にこう言う。
「見ててやるって約束したからな」
約束をしたのは事実だし、約束というものは守るのが当然だから、いつもゾロは「そうか」と言って終わる。
その約束こそ、一方的にこの子供がいきなり言い出したことだというのは、頭から消えているらしい。
あれは夕暮れ時、不意に金色の髪のこの子供が現れて宣言したのだ。「ガンバレ」と。頑張ったらご褒美をやるのだ、という真っ正直な宣言は、不思議とゾロの心に響いた。
子供の戯れ言などとは口が裂けても言わない。そんな言葉ではなかったから、ゾロは受けた。見ていろと、そう告げたのだ。
まあ、それ以外はめちゃくちゃ口の悪い、ただのませたクソガキだとは思っているのだが。
しかしそんなゾロでも、最近少し気になっていることがあった。
日暮れの時間だ。
最近日暮れが随分と遅くなってきた。だから自分もついつい熱が入って練習時間が延びている。明るいからいつまでも道場に篭もってしまうのだ。
けれど、その遅くなる時間、サンジはあの小道で待っている。
それはちょっと物騒なのではないか、さらに言えば、少し可哀想な気がしてしまったのだ。こ煩いガキが何して遊んでいようが、今まで気にもしなかったが、サンジが待っているのが自分だと分かっているからこそ、気になってしまう。
薄暗くなる時間まで小さな子供が一人でいるのも、絶対に良くないはずなのだ。それは道場の子達に対してコウシロウが口酸っぱく言っているのを聞いているから余計感じる。
正直めんどくさい。
ガキとはいえ、いっぱしの男の子。口は悪い、足癖は悪いし、小学生のくせにこれが結構強烈な蹴りを放つ。元々のバネがいいのだろう。
そういう意味ではあんまり心配はしていないのだが、何しろあの金髪は目立つ。
最近は一緒にいるのを良く見られているからか、道場でもあの金髪の男の子は可愛い可愛いと耳にタコができるほど聞かされているので、余計気になってしまう。
かといって、サンジに待つなと言っても無駄だ。
それは何度か言ってみたが、ことごとくあの小さな鼻でフフンとやっぱり笑われて終わったからだ。
後で分かったが、その仕草は洋食屋の主人であるサンジの親の仕草そのものだった。
小学生になって数ヶ月。そろそろ学校で友達なんかも出来た頃だろう。学校が終わって遊びにいくなんてことも、し始めてもおかしくはない時期だ。
それでも待っているのは、もしかしたら剣道に興味があるからか? と一応珍しくやってみるか? と誘ってもみたのだ。だが答えは
「死んでもやだ。むさ苦しい」
という万死に値する言葉だった。
さすがにムッとしたゾロだったが、確かに似合わないような気もして、それきりその話をするのは止めた。
サンジは両親の姿を見て、将来はコックになるのだと言っていた。多分それが似合いだろう。だからゾロは「ふーん」と言いつつ、それがいいと軽く答えていた。食いっぱぐれないのは、本当にいいことだと思う。
ゾロは強くなりたいという目標があまりにも高くあり、それ以外はどうでもいいと思っている。というより、そうとしか思えない自分に最近気付いていた。だからきっと、食いっぱぐれ率が高いだろうと自覚した所だったので、よりそんな風に思ったのかもしれない。
ゾロがサンジの話を肯定した時、子供はとても満足そうに頷いた。
そうだろ、そうだろ、と今にもゾロの頭をなで回しそうな感じだった。
やたら嬉しかったらしい。
そうやっていつの間にか、当たり前のように並んで歩くのが日常になってしまっていた。
誰も疑問も挟まないのかと、今更ゾロは気付いたが、事実誰も何も言わないのだからきっとそういうものなのだろう。
ちなみに、こうやってなんでもかんでも適当に納得するから、ゾロは日常から取り残されているのだが本人はまったく気付かないので平和だったりする。
「ゾロ!」
甲高い声が降ってくる。
何故この子供は必ず塀の上に立つのだろうか。危ないとは欠片も思わない見事なバランスで立つ子供は、ふんぞり返っている。
「おう。人ん家の塀だぞ、下りろ」
これが毎回の会話だ。
でもすぐにはサンジは下りない。
「今日はゾロ凄く頑張ってたな。試合…勝ってた」
「道場の仲間相手だからな。あんなもんだろう。今度正式な大会があるからな、もうちょっと気合いいれねぇと」
「大会があるのか?」
「ああ」
「見に行く」
「あ?」
振り仰げば、とても真面目な顔をした子供がしゃがみ込んで見下ろしてきていた。意外に近くに顔があってびっくりした。
「ゾロが頑張っているのは、ちゃんと見るんだ。…ご褒美やるんだからな」
最近、この子供は小さいながらも簡単なオヤツを作る。
甘い柔らかなお菓子は、ご褒美と称して試合などの後にゾロに振る舞われていた。まだまだ不格好なそれは、子供が作るにしては上出来でも、実際は大したものではない。
けれどゾロはそれを、いつも必ず食べていた。
優しい味は、動いた後のゾロにいつも優しく寄り添ってくれるようで、気持ちが落ち着くのだ。
「そうだったな」
思わず笑った。自分でも意識していなかった笑みに、子供は一瞬目を見開き、ふいっと横を向くと唇を尖らせた。
片目を綺麗に覆った髪が、子供の表情を隠してしまう。けれど、首筋が少し赤い。
ひらりとサンジの身体が軽々と宙に舞った。
反射的に手を出したゾロの腕の中に、小さな躰が吸い込まれるように下りてきた。
軽々と抱き上げると、サンジは真っ青な瞳をキラキラと輝かせながら、ゾロを見下ろしてきた。
「おれは男だからな! アムールには、ちゃーんとしてやるんだ! それが男だ」
「………あむる?」
「この際、クソミドリには目をつぶってやる! だから頑張るんだ。おれが応援してやる」
「なんか良く分からんが、応援してくれるんだな。ありがとよ」
「ゆうしょーするんだろ」
「当然だな。それくらいは取らないと強くなれねぇ」
抱き上げたまま、そう言うとサンジは手を伸ばしてきた。
は?と目を見開いたゾロの前で、サンジは不自然な格好のまま、じたばたともがいてゾロの首筋へと手を絡めようとする。
暴れるので合わせるように抱き込もうとすると、サンジはがしっと両足を開いてゾロの胴へ巻き付けると脅威のバランスでしがみついて、ゾロの顔を両手で掴んだ。
「えーっと、ガンバレのおまじないだ!」
高らかに宣言すると、子供は素早くゾロへと抱きつき、その顔をゾロに寄せた。
目を丸くしたままのゾロへ、子供は真剣な顔で目を閉じ、力任せにゾロに頭突きのように顔を突っ込んだ。
ガチっと派手な音がして、ゾロの口にサンジがぶつかった。
あまりの衝撃と痛みに仰け反りかけたゾロは、それでもサンジがいるからと踏ん張ったが涙目でよろけてその場に蹲った。
しがみついた子供を思わず抱きしめたので落とすことはしなかったが、痛みは生半可なものではない。
その間も、子供はしがみついてて離れない。
その場に尻餅をついて、身体を安定させたゾロは、力任せに子供を引き離した。
痛くてもう言葉もない。口の中が切れたのか血の味がする。
「いってーな! なにするんだよ、ゾロ!」
それはこっちのセリフだ! と言いたかったが、ゾロは口を開けない。
開いたら大惨事になりそうだった。
「どうだ! これでもう大丈夫だからな。今度の大会はゆーしょーだ!」
へへん、と胸を張る子供はどこまでも偉そうで無邪気だ。一瞬殴り飛ばしたくなったが、どうにもそうもできない。
こっちを見るサンジの顔に、どこか不安そうなものがあることが見えるからだ。どうしてか分かるからだ。
あー、もう。
ゾロは大きく息をつくと、頷いた。とにかく口が痛くて声は出せない。
頭突きの何がおまじないなのかは分からないが、もうなんでもいいから帰ろう、帰そう、そうしよう。
ずきずきする口を押さえながら、ゾロはゆっくりと立ち上がると、口を押さえてない方の手を差し出した。
サンジは満足そうに手を伸ばしてその手を握る。
そうして問題は何も解決しないまま、いつものように仲良く2人は歩いて帰る。
ちなみに、それが実は2人の初キッスで、しかも2人してファーストキスだったと気付くのは、それから15年後のことだった。
終了
☆ ☆ ☆ ☆
旅行記ちょっと横において、今日はキスの日ってことで、なんとなく前に書いた逆年の差の2人を。
キスというより、ただの度付き合いですが。
こんな風に自覚イケイケの子供の方が進んでる気がする今日この頃。
突発すぎるので、また後日改訂したりするかもです(笑)
旅行記はまた明日から(笑)
本日はこれまででーす!
ブログ拍手ありがとうございます。
拍手いただけると、凄く嬉しいのは旅模様が楽しかったからでしょうか。
一押し、本当にありがとうございましたーvv
PR
かなりびっくりした。
男部屋で一番最初に起きるのはサンジだ。だからというわけではないが、大概サンジは起きるとまず部屋に異常がないかの確認をとる。
実はカマバッカにいた間に身についた習慣でもあったのだが、それは口が裂けても言えない。
意識を失っているということが、あそこ程脅威であり恐ろしいことだ、という実感はさすがに抜くことはできなかった。考えてみれば海賊で、船上生活。それくらいの心構えがあってしかるべきだったのではないか、と今更ながらにサンジは思ってもいた。
しかし、そうは思っても、夜の見張りもいるサニーはあの頃と比べれば天国のような場所で。
夜番を引き受ける事が多いゾロに至っては、寝ていても戦闘の気配だけは逃さないという天性の戦闘探知機でもある。
だからやはり、朝起きて部屋の異常を確かめてしまうのは、習慣なのだと言える。
そのサンジは起き上がったまま、呆然と自分の枕元を見つめていた。
窓から差し込むわずかな明かりにも負けず、ボンクの木枠と枕の間に小さな箱がある。
そっけない仕様だが、確かにそれは存在感を持ってそこにあった。
いつ置かれたのだろう?
昨夜自分が寝入った時には、既にボンクは不寝番のルフィとトレーニングだと言って戻ってきていなかった剣士を覗いて全員横になっていた。
当然女性人も、まだ仕込みをしている時にわざわざ「おやすみなさい」と挨拶していってくれていた。
なので自分が一番最後と言うと語弊はあるのだが、大体最後だったのは確かだ。
その時には枕元にこんな箱はなかった。
そっと手に取ってみると、さほど重さもない。けれど、ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐり、はっとサンジは目を見開いた。
自分の他には誰も起きてすらいないはずなのに、思わず辺りを見回し、寝息といびきが聞こえるのを確認し、急いで箱を握り占めるといそいそと起き出した。
大慌てで身支度を調え、物音を立てないように部屋を出る。
出た後、部屋の様子を覇気まで使って探ってみたが、起き出す気配一つなかった。
ダイニングに飛び込むように入り、どこかガランとしているように見えるキッチンの端に駆け込む。
胸が異様に高鳴っていた。チラリとキッチンにおいてあるカレンダーを見れば、今日の日付にはハートが描かれている。甘い行事の日には大きくハートを。
つまり今日はバレンタインデー。
自分の記憶では男性から女性に花や小さなプレゼントを渡すのがこの日の習いだったはずだが、イーストでは女性から男性へのチョコレートに託した愛のプレゼント、といった風習になっていた。
所変われば品変わる。
そんなところなんだろう。バラティエの時もそれで随分とあれこれ企画した記憶もある。
大元がイースト出身の者達が多かった麦わら一味でも、それはなんとなく引き継がれていたが、形としてはチョコレート三昧の1日になる、といった食い気だけの代物としてだけだ。
今日が2月の14日なのは間違いない。
何度確認してみても、カレンダーの日付は間違ってはいない。そして枕元には甘い香りのする小さな箱。
これがチョコレートでなくてなんだ。
愛の告白でなくてなんだ!?
しかもたったあの短時間でだったが、サンジの枕元以外には、その箱はなかった。
ということは、これはサンジの為に送られた品物だということだろう。
ナミさん奥ゆかしい!!
あ、ロビンちゃんかな!? いじらしいッ!!
くねくねと身悶えしながら、思わず目尻が下がる。
寝静まった所をそっと枕元に置いていくなんて…なんて可憐なことをしてくれるのだろう。
「あああ、あいのこくはくぅうううう!!」
ついつい押さえきれずに叫び、サンジはそれでも手つきは優しく箱を開いていく。
そのたびに甘い匂いが強くなり、ドキドキが高まっていくのを止められない。
そっと最後の包み紙を開いた瞬間、サンジは目を見開いた。
「な…んだ、こりゃ…」
岩石?
いや、甘い匂いがするそれは、石などではないはずだが、見た限りただの石にしか見えない。
しかも拳程度にも満たないそれは、本当にそこらにあったら蹴り飛ばすことすら忘れて通り過ぎてしまうかもしれない。
「…んんん?」
けれど、サンジはすぐにそれをつまみ上げ、日差しが差してきた窓に向かって少し掲げてみた。
そうして、何故か、ハハ、と口元を綻ばせる。
岩石とは言い得て妙。これは原石の方が近い。
これはまだチョコレートでもない。その前の段階の、カカオマス。一応、ある程度の調整はされているのだろうが、まだまだチョコレートになるには遠い代物だ。
「……やっべ…」
手にしたまま、へなへなとサンジはその場にしゃがみ込んだ。
ナミやロビンからだったら、こんなものは来ないだろう。というか、最初から分かっていたような気もする。ナミやロビンならば、きちんと面と向かってチョコレートをくれるはずだ。いくらマイホームであるサニーの男部屋であったとしても、いくら気を許しまくった仲間といえど、寝ている枕元にこんなものを置かれてサンジが起きないはずもない。特にナミ達ならば。
それが出来るとすれば…。
「………くっそぅ……」
船長に剣士の二人くらいか。
けれど、船長がこんなことをするはずもない。となると残りは一人。
きっと昨日出港した島で手に入れたから、持って来たのだろう。あの島は丁度バレンタイン目前の祭りに賑わっていた。カカオマスがあっても不思議ではない。
どうやって手に入れたのかは分からないが、これは剣士からの代物だろう。
蹲るサンジの耳に、微かに重い足音がこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。
それを聞き取ってしまったから余計、顔を伏せてしまった。
まさか、こんな洒落たことを出来るようになっていたとは。
大した進化だ、ロロノア・ゾロ。
ドアが開く音がする。
ガチャリと刀が立てる特異な音もして、横柄な足音が近づいてくる。
カカオマス。まだチョコレートにもなりきれないそれは、コックにしか必要のない…コックの為にだけあるチョコレート原料。
絶対そんなこと、ゾロ自身が知っているとは思えない。けれど、原料ならコックだろ、と単純に思いつく事ならあり得るだろう。
声がかかるその一瞬前、サンジは小さく俯いて呟いた。
あいのこくはく
「コック」
多分、この塊の完成を拝めるのは、たった一人だけだと実感してしまったのが、きっと今日という日の意味。
今日という記念日の1発目、飛び出したサンジはゾロへと岩石のような塊を放り投げ、受け取ろうとしたその腕に、小さく投げキッスを送って笑った。
☆ ☆ ☆ ☆
ハッピーバレンタイン。
甘い1日であったことを願って。
めちゃくちゃ書き殴りの一発書き、そのうちきちんともう一度書き直します…orz
男部屋で一番最初に起きるのはサンジだ。だからというわけではないが、大概サンジは起きるとまず部屋に異常がないかの確認をとる。
実はカマバッカにいた間に身についた習慣でもあったのだが、それは口が裂けても言えない。
意識を失っているということが、あそこ程脅威であり恐ろしいことだ、という実感はさすがに抜くことはできなかった。考えてみれば海賊で、船上生活。それくらいの心構えがあってしかるべきだったのではないか、と今更ながらにサンジは思ってもいた。
しかし、そうは思っても、夜の見張りもいるサニーはあの頃と比べれば天国のような場所で。
夜番を引き受ける事が多いゾロに至っては、寝ていても戦闘の気配だけは逃さないという天性の戦闘探知機でもある。
だからやはり、朝起きて部屋の異常を確かめてしまうのは、習慣なのだと言える。
そのサンジは起き上がったまま、呆然と自分の枕元を見つめていた。
窓から差し込むわずかな明かりにも負けず、ボンクの木枠と枕の間に小さな箱がある。
そっけない仕様だが、確かにそれは存在感を持ってそこにあった。
いつ置かれたのだろう?
昨夜自分が寝入った時には、既にボンクは不寝番のルフィとトレーニングだと言って戻ってきていなかった剣士を覗いて全員横になっていた。
当然女性人も、まだ仕込みをしている時にわざわざ「おやすみなさい」と挨拶していってくれていた。
なので自分が一番最後と言うと語弊はあるのだが、大体最後だったのは確かだ。
その時には枕元にこんな箱はなかった。
そっと手に取ってみると、さほど重さもない。けれど、ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐり、はっとサンジは目を見開いた。
自分の他には誰も起きてすらいないはずなのに、思わず辺りを見回し、寝息といびきが聞こえるのを確認し、急いで箱を握り占めるといそいそと起き出した。
大慌てで身支度を調え、物音を立てないように部屋を出る。
出た後、部屋の様子を覇気まで使って探ってみたが、起き出す気配一つなかった。
ダイニングに飛び込むように入り、どこかガランとしているように見えるキッチンの端に駆け込む。
胸が異様に高鳴っていた。チラリとキッチンにおいてあるカレンダーを見れば、今日の日付にはハートが描かれている。甘い行事の日には大きくハートを。
つまり今日はバレンタインデー。
自分の記憶では男性から女性に花や小さなプレゼントを渡すのがこの日の習いだったはずだが、イーストでは女性から男性へのチョコレートに託した愛のプレゼント、といった風習になっていた。
所変われば品変わる。
そんなところなんだろう。バラティエの時もそれで随分とあれこれ企画した記憶もある。
大元がイースト出身の者達が多かった麦わら一味でも、それはなんとなく引き継がれていたが、形としてはチョコレート三昧の1日になる、といった食い気だけの代物としてだけだ。
今日が2月の14日なのは間違いない。
何度確認してみても、カレンダーの日付は間違ってはいない。そして枕元には甘い香りのする小さな箱。
これがチョコレートでなくてなんだ。
愛の告白でなくてなんだ!?
しかもたったあの短時間でだったが、サンジの枕元以外には、その箱はなかった。
ということは、これはサンジの為に送られた品物だということだろう。
ナミさん奥ゆかしい!!
あ、ロビンちゃんかな!? いじらしいッ!!
くねくねと身悶えしながら、思わず目尻が下がる。
寝静まった所をそっと枕元に置いていくなんて…なんて可憐なことをしてくれるのだろう。
「あああ、あいのこくはくぅうううう!!」
ついつい押さえきれずに叫び、サンジはそれでも手つきは優しく箱を開いていく。
そのたびに甘い匂いが強くなり、ドキドキが高まっていくのを止められない。
そっと最後の包み紙を開いた瞬間、サンジは目を見開いた。
「な…んだ、こりゃ…」
岩石?
いや、甘い匂いがするそれは、石などではないはずだが、見た限りただの石にしか見えない。
しかも拳程度にも満たないそれは、本当にそこらにあったら蹴り飛ばすことすら忘れて通り過ぎてしまうかもしれない。
「…んんん?」
けれど、サンジはすぐにそれをつまみ上げ、日差しが差してきた窓に向かって少し掲げてみた。
そうして、何故か、ハハ、と口元を綻ばせる。
岩石とは言い得て妙。これは原石の方が近い。
これはまだチョコレートでもない。その前の段階の、カカオマス。一応、ある程度の調整はされているのだろうが、まだまだチョコレートになるには遠い代物だ。
「……やっべ…」
手にしたまま、へなへなとサンジはその場にしゃがみ込んだ。
ナミやロビンからだったら、こんなものは来ないだろう。というか、最初から分かっていたような気もする。ナミやロビンならば、きちんと面と向かってチョコレートをくれるはずだ。いくらマイホームであるサニーの男部屋であったとしても、いくら気を許しまくった仲間といえど、寝ている枕元にこんなものを置かれてサンジが起きないはずもない。特にナミ達ならば。
それが出来るとすれば…。
「………くっそぅ……」
船長に剣士の二人くらいか。
けれど、船長がこんなことをするはずもない。となると残りは一人。
きっと昨日出港した島で手に入れたから、持って来たのだろう。あの島は丁度バレンタイン目前の祭りに賑わっていた。カカオマスがあっても不思議ではない。
どうやって手に入れたのかは分からないが、これは剣士からの代物だろう。
蹲るサンジの耳に、微かに重い足音がこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。
それを聞き取ってしまったから余計、顔を伏せてしまった。
まさか、こんな洒落たことを出来るようになっていたとは。
大した進化だ、ロロノア・ゾロ。
ドアが開く音がする。
ガチャリと刀が立てる特異な音もして、横柄な足音が近づいてくる。
カカオマス。まだチョコレートにもなりきれないそれは、コックにしか必要のない…コックの為にだけあるチョコレート原料。
絶対そんなこと、ゾロ自身が知っているとは思えない。けれど、原料ならコックだろ、と単純に思いつく事ならあり得るだろう。
声がかかるその一瞬前、サンジは小さく俯いて呟いた。
あいのこくはく
「コック」
多分、この塊の完成を拝めるのは、たった一人だけだと実感してしまったのが、きっと今日という日の意味。
今日という記念日の1発目、飛び出したサンジはゾロへと岩石のような塊を放り投げ、受け取ろうとしたその腕に、小さく投げキッスを送って笑った。
☆ ☆ ☆ ☆
ハッピーバレンタイン。
甘い1日であったことを願って。
めちゃくちゃ書き殴りの一発書き、そのうちきちんともう一度書き直します…orz
『求婚の日』
木っ端微塵という言葉があるが、まさにその日、ゾロは木っ端微塵にされていた。
ゾロが通っている剣道場はかなり古く、また通ってくる子供達は少ない。けれど、大人達は沢山いて、中でも先日から世界一という称号を持つわけの分からない男が上がり込んでいた。
暇つぶしなんだそうだ。
それをニコニコとコウシロウ師匠は受け入れていて、ゾロは驚いたものだった。
まったく竹刀一つ手にしないその男に、ゾロが向かっていったのはもう当然の成り行きで。
しかし、小学六年生とはいえ、道場ではくいなと並んで大人顔負けの強さを誇っていたゾロは、世界一とはいえ負けるもんかと恐ろしい勝ち気さを持って挑んだ。
挑んだのはいいが、世界一はやはり世界一。
生半可な強さではなかったことを、木っ端微塵と表していいくらいの勢いで身を持って知ったのだ。
ただし、それを見ていた道場の大人達はまた別の感想を持っていたのだが、本人には関係なかっただろう。
なにせ小学六年生の小童が、世界一に挑んでこてんぱんながらも、とにかくしぶとく挑戦し続けたのだからその体力と無尽蔵の気力には天晴れとしかいいようがなかったのだ。
木っ端微塵というのがお子様ながらもゾロの実感とすれば、見ていた大人達は、世界一の鷹の目は容赦ないというより大人げない。
という一言に尽きた。
なんにしろ、相手に不足ばかりだったとはいえ、鷹の目は非常に満足してその日は酒を大盤振る舞いで呑んだらしい。楽しかったのだそうだ。
あまりにも容赦ない稽古に、さすがにぶっ倒れたゾロが目を覚ましたのは、もう夕方近くだった。
道場の隅に寝かされていた少年は、むくりと起きると、青あざだらけの身体を一瞬痛そうにさすり、しかし、ひょいと起き上がって道場に向かって一礼すると、呆気に取られている大人達にも礼を告げて、何事もなかったかのように帰宅の途についた。
さすがにコウシロウが送っていくと申し出たのだが、それにも
「平気です!」
と元気に答えて道場着のまま、竹刀を収めた袋を肩にいつもの挨拶を残して歩いて出た。
あんまり見事に負けたからか、ゾロは恐ろしく清々しく…悔しさに身を浸しきっていた。
まさか世界一があんなに遠いとは、ちょっと思っていなかった。自分がどれだけ世界を知らなかったのか、カルチャーショックだ。
強い強いと言われていたけど、全然自分は強くなかったのだ。
それはもう、くいなに勝てなかった小さい頃以上に切羽詰まったショックだった。
身体はあちこちギシギシいっているし、歩く度に足も胸も腰も腕も痛い。
けど、それは負けたのだから仕方ないのだ。本当だったら、死んでいてもおかしくない。あれが刀だったら死んでる。
前に読んだ漫画では、刀で一刀両断にされて血しぶき上げて死ぬシーンがあったが、自分はまさにそれだったはずだ。
自分が弱かったというのを知るのは、さすがに嫌なものだった。痛みよりも、その事実の方がかなり痛くて、実際の肉体の痛みなんぞどうでもいい程に、実はうちのめされていたゾロだ。
舗装された道を、とぼとぼとそれでも歩いていた。
いつしか夕方のねっとりとした橙色の日差しが、ゾロを通して細長い影を地面に浮き上がらせても、ゾロにはそれが目に入ってはいなかった。
世界一になるには、どうすればいいだろう?
いつしかゾロはそんなことを考えていた。
自分は弱い。弱いなら、強くならなきゃ。
強くなるにはどうすればいい。負けなきゃいい。
負けない為にはどうすればいい。
…やっぱ、練習かな。もっと強くなるなら、それっきゃねぇだろう。
一歩歩くごとに感じる痛みに、眉を寄せながら、それでも一つ一つ、噛みしめるように考える。
強くなるには…
「まちやがれ!このクソマリモっ!」
不意に甲高い声が耳元から聞こえ、反射的に仰け反って、ゾロは痛みに呻いた。
全身が痛いのだから、そんな動きをしたら響くのは当然だ。
しかし何故そんな所から声が聞こえる!? と振り向けば、歩いていた低いブロックの上に立つ小さな男の子に気付いた。
橙色の夕陽を浴びながら、キラキラと光りを反射させる金色の髪。くるりと巻いた左の眉尻。夕陽を吸って少し色を変えた青い瞳がきつい色を讃えてゾロを睨んでいる。
見たこともないまだ小さな子供だった。
「 誰だ?」
「サンジだ!」
やっぱり知らない子だ。
そもそも外人の子供に知り合いはいない。
首を傾げたゾロに、その子供は仕方なさそうに溜息をついてみせた。恐ろしくませた仕草だったが、金髪の小さな男の子がすると、妙に様になるような気がした。…気がしただけなのだが、そう見えてしまった。
「おい、クソマリモ」
しかしその容姿に反して、金髪の子供は恐ろしく口が悪かった。
「クソマリモってのはおれのことか、このグル眉」
「ぐっ…グル眉!? それはおれのことか!」
「おう、お前のことだグルグル眉毛。ところで、なんか用か?」
どう見ても、まだ小学生でもない幼さなだけに、あまり邪険にもできず、ゾロはうんざりとした様子でそういうと、その態度に子供は怒髪天をついたようだった。
「お前むかつく! なんだよ!」
ブロックの上で地団駄を踏む幼い子供は、器用に片足を上げるとゾロを蹴りつけてきた。が、いくら体中が痛くても、それくらは避けられる。
避けたゾロに悔しそうにして、さらに小さな子サンジは口汚くののしった。
甲高い声だけに、なんとなくその憎まれ口もそこまで悪くは響かないのが救いだった。
「だから、お前はなんなんだよ」
「だからサンジだ!」
「……あー…はいはい」
道場で小さい子相手をしていなかったら、切れていたと自分でも思う。
それでもきちんと立ち止まって相手をしているゾロに、サンジはひとしきりむかつくー!などと叫んだ後、手に握っていた小さな袋を投げて寄こした。
投げたといっても、それだけは少し大切に放ったといった方が正しいだろう。
それは過たずゾロの手に落ち、いい加減切れまくって肩で息をするサンジはそれを見ると、大きく胸を張った。
「お前にやる!」
ゾロが袋に目を落とすと、そこにはこの近くの保育園の名前が書かれていた。
多分サンジはその保育園に通っている子なのだろう。
そういえば、時折保育園から道場に来る子供がいる。習いに来ているというよりも、覗きにきたり遊びに来たりしているだけなのだが、なんとなく保育園も道場と仲良くしているからか、オープンな付き合いで時間外にそんな風に遊びに行くことにそう煩くいっては来ないらしい。不思議な関係だったが、上手くいっているし、皆がそれを知っているので不問になっているらしい。
多分サンジもそんな子の1人なのだろう。
「くれんのか?」
「おう!」
袋の中身は匂いと触った感触から、お菓子だと分かった。
どんなお菓子かは分からないが、保育園生からしたらもの凄く大切なものではなかろうか。
「そうか」
なんとなく、この子供がくれる意味が分かった気がした。
きっとこの子供は見ていたのだろう。自分がこてんぱんに負けていた所を。
それでこのオヤツをくれようとしているのだろう。
バカにしている、と怒るのは簡単だったが、なんとなくそんな風には思えず、ゾロはブロックに立って、ようやく自分の耳元くらいにくる子供に礼を言った。
「ありがとよ」
受け取ってもらえた、と思ったからか、サンジは一瞬ほっとしたような顔を見せ、しかし次の瞬間キッとゾロを睨み付けてきた。
「それはご褒美だからな! よく頑張ったご褒美だ!」
褒美? と疑問に思ったことを聡い子供はすぐに見抜いたらしい。
「よく頑張ったらご褒美やるもんだろう? いいか! これからはおれがちゃんとご褒美をやる。よく頑張ったら、ちゃんとやるんだから…お前はもっとガンバレ!」
どうやら自分は励まされているらしい。
ゾロはマジマジとその小さな子を見た。
オレンジの光以外の要素でだろう、ほっぺが真っ赤になっている。
益々深まっていく橙色の光の中で、金色の髪が小さく揺れて子供の感情を伝えてくる。
「そうか…頑張るのか…」
「そうだ、お前はガンバレ。おれが見といてやる!それで…それで…」
「よく頑張ったらご褒美なんだな」
「そ、そうだ!」
「…そうか」
負けたのを見て、何か思ったのだろう。
小さくゾロは頷いた。
「なら、見てろ。おれは強くなる」
何かを誓うように、ゾロは青く澄んだ小さな子の目を見つめた。
その目の強さにか、小さな子供は一度フルリと震えると、きちんと目を合わせてきた。そうして逃げることなく、にらみ返し、大きくこちらも頷いた。
「見てるからな…ずっと」
「おう」
「で、ちゃんと頑張ったらご褒美やるからな」
「ああ、そりゃありがてぇ」
初めてゾロは笑った。何故か子供はまた大きく震えると、今度は全身で大きく腕を振り回し
「わすれんなよっ!!」
と喚いて、ヒラリと塀を飛び降りると走り出した。
夕焼けの日差しの残り火が、まるで燃え上がったかのような、そんな一瞬の出会い。
まさかその言葉が、そのままプロポーズになっていたと気付くのは、それから16年後のことだった。
☆ ☆ ☆ ☆
求婚の日らしいので、小さく小話。
小さいから皆小さくしてみました。年の差逆バージョン。年の差あきすぎかな…(笑)
たまには、ということで。書き逃げしてみます。
木っ端微塵という言葉があるが、まさにその日、ゾロは木っ端微塵にされていた。
ゾロが通っている剣道場はかなり古く、また通ってくる子供達は少ない。けれど、大人達は沢山いて、中でも先日から世界一という称号を持つわけの分からない男が上がり込んでいた。
暇つぶしなんだそうだ。
それをニコニコとコウシロウ師匠は受け入れていて、ゾロは驚いたものだった。
まったく竹刀一つ手にしないその男に、ゾロが向かっていったのはもう当然の成り行きで。
しかし、小学六年生とはいえ、道場ではくいなと並んで大人顔負けの強さを誇っていたゾロは、世界一とはいえ負けるもんかと恐ろしい勝ち気さを持って挑んだ。
挑んだのはいいが、世界一はやはり世界一。
生半可な強さではなかったことを、木っ端微塵と表していいくらいの勢いで身を持って知ったのだ。
ただし、それを見ていた道場の大人達はまた別の感想を持っていたのだが、本人には関係なかっただろう。
なにせ小学六年生の小童が、世界一に挑んでこてんぱんながらも、とにかくしぶとく挑戦し続けたのだからその体力と無尽蔵の気力には天晴れとしかいいようがなかったのだ。
木っ端微塵というのがお子様ながらもゾロの実感とすれば、見ていた大人達は、世界一の鷹の目は容赦ないというより大人げない。
という一言に尽きた。
なんにしろ、相手に不足ばかりだったとはいえ、鷹の目は非常に満足してその日は酒を大盤振る舞いで呑んだらしい。楽しかったのだそうだ。
あまりにも容赦ない稽古に、さすがにぶっ倒れたゾロが目を覚ましたのは、もう夕方近くだった。
道場の隅に寝かされていた少年は、むくりと起きると、青あざだらけの身体を一瞬痛そうにさすり、しかし、ひょいと起き上がって道場に向かって一礼すると、呆気に取られている大人達にも礼を告げて、何事もなかったかのように帰宅の途についた。
さすがにコウシロウが送っていくと申し出たのだが、それにも
「平気です!」
と元気に答えて道場着のまま、竹刀を収めた袋を肩にいつもの挨拶を残して歩いて出た。
あんまり見事に負けたからか、ゾロは恐ろしく清々しく…悔しさに身を浸しきっていた。
まさか世界一があんなに遠いとは、ちょっと思っていなかった。自分がどれだけ世界を知らなかったのか、カルチャーショックだ。
強い強いと言われていたけど、全然自分は強くなかったのだ。
それはもう、くいなに勝てなかった小さい頃以上に切羽詰まったショックだった。
身体はあちこちギシギシいっているし、歩く度に足も胸も腰も腕も痛い。
けど、それは負けたのだから仕方ないのだ。本当だったら、死んでいてもおかしくない。あれが刀だったら死んでる。
前に読んだ漫画では、刀で一刀両断にされて血しぶき上げて死ぬシーンがあったが、自分はまさにそれだったはずだ。
自分が弱かったというのを知るのは、さすがに嫌なものだった。痛みよりも、その事実の方がかなり痛くて、実際の肉体の痛みなんぞどうでもいい程に、実はうちのめされていたゾロだ。
舗装された道を、とぼとぼとそれでも歩いていた。
いつしか夕方のねっとりとした橙色の日差しが、ゾロを通して細長い影を地面に浮き上がらせても、ゾロにはそれが目に入ってはいなかった。
世界一になるには、どうすればいいだろう?
いつしかゾロはそんなことを考えていた。
自分は弱い。弱いなら、強くならなきゃ。
強くなるにはどうすればいい。負けなきゃいい。
負けない為にはどうすればいい。
…やっぱ、練習かな。もっと強くなるなら、それっきゃねぇだろう。
一歩歩くごとに感じる痛みに、眉を寄せながら、それでも一つ一つ、噛みしめるように考える。
強くなるには…
「まちやがれ!このクソマリモっ!」
不意に甲高い声が耳元から聞こえ、反射的に仰け反って、ゾロは痛みに呻いた。
全身が痛いのだから、そんな動きをしたら響くのは当然だ。
しかし何故そんな所から声が聞こえる!? と振り向けば、歩いていた低いブロックの上に立つ小さな男の子に気付いた。
橙色の夕陽を浴びながら、キラキラと光りを反射させる金色の髪。くるりと巻いた左の眉尻。夕陽を吸って少し色を変えた青い瞳がきつい色を讃えてゾロを睨んでいる。
見たこともないまだ小さな子供だった。
「 誰だ?」
「サンジだ!」
やっぱり知らない子だ。
そもそも外人の子供に知り合いはいない。
首を傾げたゾロに、その子供は仕方なさそうに溜息をついてみせた。恐ろしくませた仕草だったが、金髪の小さな男の子がすると、妙に様になるような気がした。…気がしただけなのだが、そう見えてしまった。
「おい、クソマリモ」
しかしその容姿に反して、金髪の子供は恐ろしく口が悪かった。
「クソマリモってのはおれのことか、このグル眉」
「ぐっ…グル眉!? それはおれのことか!」
「おう、お前のことだグルグル眉毛。ところで、なんか用か?」
どう見ても、まだ小学生でもない幼さなだけに、あまり邪険にもできず、ゾロはうんざりとした様子でそういうと、その態度に子供は怒髪天をついたようだった。
「お前むかつく! なんだよ!」
ブロックの上で地団駄を踏む幼い子供は、器用に片足を上げるとゾロを蹴りつけてきた。が、いくら体中が痛くても、それくらは避けられる。
避けたゾロに悔しそうにして、さらに小さな子サンジは口汚くののしった。
甲高い声だけに、なんとなくその憎まれ口もそこまで悪くは響かないのが救いだった。
「だから、お前はなんなんだよ」
「だからサンジだ!」
「……あー…はいはい」
道場で小さい子相手をしていなかったら、切れていたと自分でも思う。
それでもきちんと立ち止まって相手をしているゾロに、サンジはひとしきりむかつくー!などと叫んだ後、手に握っていた小さな袋を投げて寄こした。
投げたといっても、それだけは少し大切に放ったといった方が正しいだろう。
それは過たずゾロの手に落ち、いい加減切れまくって肩で息をするサンジはそれを見ると、大きく胸を張った。
「お前にやる!」
ゾロが袋に目を落とすと、そこにはこの近くの保育園の名前が書かれていた。
多分サンジはその保育園に通っている子なのだろう。
そういえば、時折保育園から道場に来る子供がいる。習いに来ているというよりも、覗きにきたり遊びに来たりしているだけなのだが、なんとなく保育園も道場と仲良くしているからか、オープンな付き合いで時間外にそんな風に遊びに行くことにそう煩くいっては来ないらしい。不思議な関係だったが、上手くいっているし、皆がそれを知っているので不問になっているらしい。
多分サンジもそんな子の1人なのだろう。
「くれんのか?」
「おう!」
袋の中身は匂いと触った感触から、お菓子だと分かった。
どんなお菓子かは分からないが、保育園生からしたらもの凄く大切なものではなかろうか。
「そうか」
なんとなく、この子供がくれる意味が分かった気がした。
きっとこの子供は見ていたのだろう。自分がこてんぱんに負けていた所を。
それでこのオヤツをくれようとしているのだろう。
バカにしている、と怒るのは簡単だったが、なんとなくそんな風には思えず、ゾロはブロックに立って、ようやく自分の耳元くらいにくる子供に礼を言った。
「ありがとよ」
受け取ってもらえた、と思ったからか、サンジは一瞬ほっとしたような顔を見せ、しかし次の瞬間キッとゾロを睨み付けてきた。
「それはご褒美だからな! よく頑張ったご褒美だ!」
褒美? と疑問に思ったことを聡い子供はすぐに見抜いたらしい。
「よく頑張ったらご褒美やるもんだろう? いいか! これからはおれがちゃんとご褒美をやる。よく頑張ったら、ちゃんとやるんだから…お前はもっとガンバレ!」
どうやら自分は励まされているらしい。
ゾロはマジマジとその小さな子を見た。
オレンジの光以外の要素でだろう、ほっぺが真っ赤になっている。
益々深まっていく橙色の光の中で、金色の髪が小さく揺れて子供の感情を伝えてくる。
「そうか…頑張るのか…」
「そうだ、お前はガンバレ。おれが見といてやる!それで…それで…」
「よく頑張ったらご褒美なんだな」
「そ、そうだ!」
「…そうか」
負けたのを見て、何か思ったのだろう。
小さくゾロは頷いた。
「なら、見てろ。おれは強くなる」
何かを誓うように、ゾロは青く澄んだ小さな子の目を見つめた。
その目の強さにか、小さな子供は一度フルリと震えると、きちんと目を合わせてきた。そうして逃げることなく、にらみ返し、大きくこちらも頷いた。
「見てるからな…ずっと」
「おう」
「で、ちゃんと頑張ったらご褒美やるからな」
「ああ、そりゃありがてぇ」
初めてゾロは笑った。何故か子供はまた大きく震えると、今度は全身で大きく腕を振り回し
「わすれんなよっ!!」
と喚いて、ヒラリと塀を飛び降りると走り出した。
夕焼けの日差しの残り火が、まるで燃え上がったかのような、そんな一瞬の出会い。
まさかその言葉が、そのままプロポーズになっていたと気付くのは、それから16年後のことだった。
☆ ☆ ☆ ☆
求婚の日らしいので、小さく小話。
小さいから皆小さくしてみました。年の差逆バージョン。年の差あきすぎかな…(笑)
たまには、ということで。書き逃げしてみます。
今日は何曜日でしょうか!?
と叫びたくなっております。おかしい…昨日日誌書いて上げたはずなのに…と朝起きて思ったんですが、どうやら夢で書いて上げたようです。
…なんてこったい。
こんばんは。
ちょっと仕事が立て込んでいて、この二日程手が足りません。
ついでに両親が今週入ってから旅行に行っているので、余計私自身の手が足りずにドタバタ中です。しかし用事を夢の中でやったって、現実は変わらない…変わらないのよ私!!
と今日は朝からorzな感じでございました(笑)
せっかくのゾロ誕月なんだから、もうちょっとあれこれやりたいんですけどねぇ。
あ、それで思い出した。
ちょっと前にツイッターで、診断系のものをやったんです。
『新作発表「○○だせ どうぶつの○」』というやつです。
でまあ、多分その時の診断なんだと思うんですが、結果こんなのが出ました。
『ほしづきさんの新作は、「てをだせ どうぶつの餌」 です。楽しみですね。』
………これって……。とにかくツイッターでは、これは自分が餌なのか、それとも餌をくれるのか てをだしたらどうなるのどうぶつて(笑)
と呟いてみたんですが、そうしたらその時繋がっていた一方が、
「餌はサンジで、動物はゾロ」
と言ってくださいまして。おお、それなら本当に新作できるんじゃね? じゃ、書いて、と言われたので、即興で一つテキトーな短文ものを書き散らしたんでございます。
あっという間に流れたから、読んでる人フォローしてくれている人でも、ほぼいないはず(笑)
しかも即興だから、デキは今一だったんですが、せっかくのゾロ誕だし、考えてみればブログ専用の方もいるかもしれないし!
ということで、続きにその即興を上げてみます。
ゾロ誕だもん、たまにはこういうのも有りかと思ってください(笑)
さて、では、できるだけ潜ってきます!
本日はこれまででーす!
ブログ拍手ありがとうございます。
ゾロ誕月をとことんまで楽しみたいっ!その願いを完遂すべく、後押ししてくださる一押しに感謝します。本当にありがとうございましたーvv
と叫びたくなっております。おかしい…昨日日誌書いて上げたはずなのに…と朝起きて思ったんですが、どうやら夢で書いて上げたようです。
…なんてこったい。
こんばんは。
ちょっと仕事が立て込んでいて、この二日程手が足りません。
ついでに両親が今週入ってから旅行に行っているので、余計私自身の手が足りずにドタバタ中です。しかし用事を夢の中でやったって、現実は変わらない…変わらないのよ私!!
と今日は朝からorzな感じでございました(笑)
せっかくのゾロ誕月なんだから、もうちょっとあれこれやりたいんですけどねぇ。
あ、それで思い出した。
ちょっと前にツイッターで、診断系のものをやったんです。
『新作発表「○○だせ どうぶつの○」』というやつです。
でまあ、多分その時の診断なんだと思うんですが、結果こんなのが出ました。
『ほしづきさんの新作は、「てをだせ どうぶつの餌」 です。楽しみですね。』
………これって……。とにかくツイッターでは、これは自分が餌なのか、それとも餌をくれるのか てをだしたらどうなるのどうぶつて(笑)
と呟いてみたんですが、そうしたらその時繋がっていた一方が、
「餌はサンジで、動物はゾロ」
と言ってくださいまして。おお、それなら本当に新作できるんじゃね? じゃ、書いて、と言われたので、即興で一つテキトーな短文ものを書き散らしたんでございます。
あっという間に流れたから、読んでる人フォローしてくれている人でも、ほぼいないはず(笑)
しかも即興だから、デキは今一だったんですが、せっかくのゾロ誕だし、考えてみればブログ専用の方もいるかもしれないし!
ということで、続きにその即興を上げてみます。
ゾロ誕だもん、たまにはこういうのも有りかと思ってください(笑)
さて、では、できるだけ潜ってきます!
本日はこれまででーす!
ブログ拍手ありがとうございます。
ゾロ誕月をとことんまで楽しみたいっ!その願いを完遂すべく、後押ししてくださる一押しに感謝します。本当にありがとうございましたーvv
魔法のようなものだな。
初めて見た時から、そんな風に思っていた。
あれはまだメリー号に乗っていた時だ。あの頃はサンジが作業をするキッチンは遮るものがない壁際にあり、今のサニー号とは比べものにならないくらいささやかなものでしかなかった。
それはサニーに乗ったからこそ分かったことで、あの頃はそんなこと考えたこともなかった。あの簡易キッチンとしか言いようのないスペースでも、サンジはいつも活き活きと動いていた。
初めてまともにメリーのキッチンに立って作業をしているのを見たのは、さていつ頃だったか。
確か、ナミを取り返した後のことだったと記憶しているが、その時にも思った。
魔法かなにかじゃないか?
と。
大した時間もかかっていないのに、サンジが動いた後には形を変えた料理という代物が出来上がっていく。
食卓に上ったそれらは、昔からゾロも知っている食べられる物ではあるが、最初に見た塊達とはまったく違う姿になっている。
サンジが作っている、と知っていても。
やはり、それはゾロには魔法のように思えたのだ。
ゾロはわずかに目を見開き、今、リズミカルな小さな音を寸分違わず奏でている男の手元を覗き込んだ。
サニー号のキッチンは対面式だ。
カウンターに座って、ほんの少し覗き込むように見れば、サンジの手元さえも丸見えだ。
そういえば、メリーの時には背中ばかり見ていた記憶がある。
サンジのしっかりとした肩と肩胛骨が腕の動きに連動するように揺れるのを、何度ぼんやりと見たことだろう。
キッチン兼リビングだったあの場所は、今以上にクルーの唯一の憩いの場でもあった。だから何かにつけて入り浸っていた。特に雨の日。嵐でなくても雨が降る時はあるのだ。
そういう時は、サンジが昼の支度だのお茶の支度だの夕飯の仕込みだのと動いているのを、なんとなく目にする機会が多かったのだ。
全部背中越しだったけれど。
今サンジは一身に小刻みに小さな包丁をそれこそ、信じられない程の早さで上下させている。
刻んでいるのは、黒に近い焦げ茶色の塊。甘ったるい匂いがする割に、それは結構なごつさで刻むサンジに挑んでいるようだ。
だがサンジの動きは淀むこともなく、一定の安定感をもたらしている。
ゾロは知っている。あの塊はチョコレートで、これからサンジは沢山のチョコレート菓子を作るのだ。
チラリと視線をずらせば、色とりどりの小さな果物がキッチンの端に山のように置かれているし、瓶に入った白いクリームやら、黄色いバターの塊やら、判別のつかない色々なものがそれでも整然と置かれている。
まったくゾロには統一性が感じられないそれらは、もう数時間もすれば、別の姿を見せて自分達の前に饗される。
小さな火にかけたられ鍋は、白い湯気を上げてくつくつとお湯を満杯に沸かしている。
考えてみれば、食べる人数が増えてもこのサニーのキッチンに立つのはサンジ1人だ。まったく苦になっていないのは分かっている。そもそもルフィが1人で5人分は軽く食べるのだから、今更数人分増えたからといってどうということはないのだろう。
サンジの技量は1人で何十人分の料理を作る程度は楽にこなす。
1度に大量の種類の料理を作るということを、まるで息をするように自然にやっていく。それはサンジが作る料理の手順をきちんと把握し、時間配分や作業をどう進めていいかの計算ができているからだろう。
だが、そんなものさっぱり分からないゾロからしてみれば、野菜や肉の塊がふと気付くとまったく違う良い匂いまでさせるものに変化するのは、やっぱり理解できない。
何度見ても、最初から最後まで見ていても、やっぱりゾロには料理というものがよく分からない。
だから、それはやはり魔法のような気がするのだ。
サンジはリズムを刻む手を緩めずに、チラリとゾロを見た。ほんの一瞬だ。ゾロはそれに気づきながらも、黙ってサンジの手元を見ている。
時々ゾロはそんな風に人が作業しているのを見ている。
随分と昔、メリー号の時にウソップ工場でウソップがダイアルを加工しているとき、そうやってじっと見ていたことがあった。
その時、苦笑したらしいウソップが楽しいか? と聞いたのをサンジは背を向けたまま聞いていた。
どうやらゾロは頷いたらしく、そうか、というウソップの相槌だけが聞こえてきた。
その声が酷く楽しそうだったのをサンジは覚えていた。振り返りたかったことも。頷いた時のゾロがどんな顔をしていたのか、酷く気になったのだ。
ゾロはサンジの手元を、もの凄く興味深そうに見ている。それは面白いと思うと同時に、無心な様子で、とても楽しそうにも思える。
こんな顔をして見ていたのか。
サニー号になって、初めてサンジはゾロがそんな風に自分を見ていることに気付いた。
特に料理をしている時を。
あっという間に刻み終えたチョコレートを、三つのボウルに小分けにして入れる。
洋酒があるのを視界の隅に入れ、生クリームを確認する。
中鍋を用意すると生クリームを計りながら入れ、弱火にかける。トロトロとした火加減を見ながらまたチラリとゾロを見る。
ゾロは削られたチョコレートを見ては、サンジが火に掛けた鍋も見ている。
サンジの口元になんとなく笑みが登る。
そうしてサンジはもう一つ鍋を取り出した。今度は一番小さな鍋だ。
生クリームをまた計って入れ、もう一つのコンロにかける。ここの火はそこまで小さくしない。そのままコトコトと両方を見つめ、沸騰具合を確かめる。
すぐに小鍋の際が泡立ち始めると、サンジは刻んだチョコレートを引き寄せた。ゾロの視線が突き刺さるのを感じる。それをどこかくすぐったく感じながら、そっと目分量で計ったチョコを手早く入れる。
煮立ち過ぎないように火加減を見つつ、チョコレートを溶かし洋酒の瓶のうちラム酒を手に取ると、そっと色のついたそれにわずかに注ぐ。
ゆっくりと二回しほどかき混ぜ、手早く用意したマグカップにそれを注ぐ。
先にホイップしていたクリームに塩をパラパラとまぶし、ついでにと粗挽きの胡椒をかける。
淀みない動きは見ていて気持ちいい。
迷いがない。それは、絶対の自信に満ちていることでもある。
いつの間にか一心に見ていたゾロの目の前に、コトリ、とマグカップが置かれた。
甘ったるい匂いの中に、胡椒のスパイシーな香りが混ざってゾロの鼻孔をくすぐった。
あ? と見上げると、サンジが柔らかに笑ったのが見えた。
「ハッピーバレンタイン」
これがサンジが今日作る菓子の第1号。
一番最初の魔法の品。
甘ったるそうなそれを、けれどゾロはためらいもなく手にして口に持って行った。
そう甘いものを好まない自分をサンジは知っている。
ならば、自分の口に合わないものをサンジは絶対に出さない。それをゾロは知っている。
一口飲んだゾロが、満足そうに笑う。
サンジは精一杯身を乗り出し、ゾロの襟首を掴むと無理矢理自分の方へと引き寄せた。
口の回りについた生クリームを舐めると、ゾロが笑いながらがぶりとサンジに噛みついてくる。
チョコレートの苦みと生クリームのわずかな甘みに洋酒の香りがまざったそれを、サンジはうっとりと受け入れる。
サンジがもらう、第1号。
苦くて甘い、バレンタインのチョコは、より甘く仕上がってサンジを満足させたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
なにかバレンタインに一つくらい…と思って思いつくままに書き殴ったら、なんかこんな感じになりました。間に合わないかと思った。滑り込みでバレンタインっ!
サニー号には皆いるんだけども、サンジがおやつを作っている中途半端な時間に、たまたま二人きりになったわずかな隙間でのこと…みたいな。
出来上がってるのに、なんとなくまだ不器用な海賊2人。
みたいな感じでした。
職人の作業は見ていて本当に楽しいと思うんですよ。
そんな感じの突発バレンタイン小話でこざいました。
…突発過ぎて、自分でもびっくりですよ。
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初めて見た時から、そんな風に思っていた。
あれはまだメリー号に乗っていた時だ。あの頃はサンジが作業をするキッチンは遮るものがない壁際にあり、今のサニー号とは比べものにならないくらいささやかなものでしかなかった。
それはサニーに乗ったからこそ分かったことで、あの頃はそんなこと考えたこともなかった。あの簡易キッチンとしか言いようのないスペースでも、サンジはいつも活き活きと動いていた。
初めてまともにメリーのキッチンに立って作業をしているのを見たのは、さていつ頃だったか。
確か、ナミを取り返した後のことだったと記憶しているが、その時にも思った。
魔法かなにかじゃないか?
と。
大した時間もかかっていないのに、サンジが動いた後には形を変えた料理という代物が出来上がっていく。
食卓に上ったそれらは、昔からゾロも知っている食べられる物ではあるが、最初に見た塊達とはまったく違う姿になっている。
サンジが作っている、と知っていても。
やはり、それはゾロには魔法のように思えたのだ。
ゾロはわずかに目を見開き、今、リズミカルな小さな音を寸分違わず奏でている男の手元を覗き込んだ。
サニー号のキッチンは対面式だ。
カウンターに座って、ほんの少し覗き込むように見れば、サンジの手元さえも丸見えだ。
そういえば、メリーの時には背中ばかり見ていた記憶がある。
サンジのしっかりとした肩と肩胛骨が腕の動きに連動するように揺れるのを、何度ぼんやりと見たことだろう。
キッチン兼リビングだったあの場所は、今以上にクルーの唯一の憩いの場でもあった。だから何かにつけて入り浸っていた。特に雨の日。嵐でなくても雨が降る時はあるのだ。
そういう時は、サンジが昼の支度だのお茶の支度だの夕飯の仕込みだのと動いているのを、なんとなく目にする機会が多かったのだ。
全部背中越しだったけれど。
今サンジは一身に小刻みに小さな包丁をそれこそ、信じられない程の早さで上下させている。
刻んでいるのは、黒に近い焦げ茶色の塊。甘ったるい匂いがする割に、それは結構なごつさで刻むサンジに挑んでいるようだ。
だがサンジの動きは淀むこともなく、一定の安定感をもたらしている。
ゾロは知っている。あの塊はチョコレートで、これからサンジは沢山のチョコレート菓子を作るのだ。
チラリと視線をずらせば、色とりどりの小さな果物がキッチンの端に山のように置かれているし、瓶に入った白いクリームやら、黄色いバターの塊やら、判別のつかない色々なものがそれでも整然と置かれている。
まったくゾロには統一性が感じられないそれらは、もう数時間もすれば、別の姿を見せて自分達の前に饗される。
小さな火にかけたられ鍋は、白い湯気を上げてくつくつとお湯を満杯に沸かしている。
考えてみれば、食べる人数が増えてもこのサニーのキッチンに立つのはサンジ1人だ。まったく苦になっていないのは分かっている。そもそもルフィが1人で5人分は軽く食べるのだから、今更数人分増えたからといってどうということはないのだろう。
サンジの技量は1人で何十人分の料理を作る程度は楽にこなす。
1度に大量の種類の料理を作るということを、まるで息をするように自然にやっていく。それはサンジが作る料理の手順をきちんと把握し、時間配分や作業をどう進めていいかの計算ができているからだろう。
だが、そんなものさっぱり分からないゾロからしてみれば、野菜や肉の塊がふと気付くとまったく違う良い匂いまでさせるものに変化するのは、やっぱり理解できない。
何度見ても、最初から最後まで見ていても、やっぱりゾロには料理というものがよく分からない。
だから、それはやはり魔法のような気がするのだ。
サンジはリズムを刻む手を緩めずに、チラリとゾロを見た。ほんの一瞬だ。ゾロはそれに気づきながらも、黙ってサンジの手元を見ている。
時々ゾロはそんな風に人が作業しているのを見ている。
随分と昔、メリー号の時にウソップ工場でウソップがダイアルを加工しているとき、そうやってじっと見ていたことがあった。
その時、苦笑したらしいウソップが楽しいか? と聞いたのをサンジは背を向けたまま聞いていた。
どうやらゾロは頷いたらしく、そうか、というウソップの相槌だけが聞こえてきた。
その声が酷く楽しそうだったのをサンジは覚えていた。振り返りたかったことも。頷いた時のゾロがどんな顔をしていたのか、酷く気になったのだ。
ゾロはサンジの手元を、もの凄く興味深そうに見ている。それは面白いと思うと同時に、無心な様子で、とても楽しそうにも思える。
こんな顔をして見ていたのか。
サニー号になって、初めてサンジはゾロがそんな風に自分を見ていることに気付いた。
特に料理をしている時を。
あっという間に刻み終えたチョコレートを、三つのボウルに小分けにして入れる。
洋酒があるのを視界の隅に入れ、生クリームを確認する。
中鍋を用意すると生クリームを計りながら入れ、弱火にかける。トロトロとした火加減を見ながらまたチラリとゾロを見る。
ゾロは削られたチョコレートを見ては、サンジが火に掛けた鍋も見ている。
サンジの口元になんとなく笑みが登る。
そうしてサンジはもう一つ鍋を取り出した。今度は一番小さな鍋だ。
生クリームをまた計って入れ、もう一つのコンロにかける。ここの火はそこまで小さくしない。そのままコトコトと両方を見つめ、沸騰具合を確かめる。
すぐに小鍋の際が泡立ち始めると、サンジは刻んだチョコレートを引き寄せた。ゾロの視線が突き刺さるのを感じる。それをどこかくすぐったく感じながら、そっと目分量で計ったチョコを手早く入れる。
煮立ち過ぎないように火加減を見つつ、チョコレートを溶かし洋酒の瓶のうちラム酒を手に取ると、そっと色のついたそれにわずかに注ぐ。
ゆっくりと二回しほどかき混ぜ、手早く用意したマグカップにそれを注ぐ。
先にホイップしていたクリームに塩をパラパラとまぶし、ついでにと粗挽きの胡椒をかける。
淀みない動きは見ていて気持ちいい。
迷いがない。それは、絶対の自信に満ちていることでもある。
いつの間にか一心に見ていたゾロの目の前に、コトリ、とマグカップが置かれた。
甘ったるい匂いの中に、胡椒のスパイシーな香りが混ざってゾロの鼻孔をくすぐった。
あ? と見上げると、サンジが柔らかに笑ったのが見えた。
「ハッピーバレンタイン」
これがサンジが今日作る菓子の第1号。
一番最初の魔法の品。
甘ったるそうなそれを、けれどゾロはためらいもなく手にして口に持って行った。
そう甘いものを好まない自分をサンジは知っている。
ならば、自分の口に合わないものをサンジは絶対に出さない。それをゾロは知っている。
一口飲んだゾロが、満足そうに笑う。
サンジは精一杯身を乗り出し、ゾロの襟首を掴むと無理矢理自分の方へと引き寄せた。
口の回りについた生クリームを舐めると、ゾロが笑いながらがぶりとサンジに噛みついてくる。
チョコレートの苦みと生クリームのわずかな甘みに洋酒の香りがまざったそれを、サンジはうっとりと受け入れる。
サンジがもらう、第1号。
苦くて甘い、バレンタインのチョコは、より甘く仕上がってサンジを満足させたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
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