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 昼休みの時間は短い。
 ブルックが合計三曲も弾き、お弁当をそれこそ貪るように食べていると、遠くから予鈴が鳴りいた。
 昼休みの時間だけは、三学部共通だ。
 特に中学部と高等部は五時間目がきっちりと入っている分、融通も効かない。
「お、お前等は時間だな」
 変態のくせにきっちりと時間を守る教師の鑑が、サングラスを上げて図書館の前に付けられている時計を眺め見た。
「おれは午後は講義ないんだよな」
 ニコニコ顔でエースが楊枝を口の端でゆらゆらと動かす。
「ずりーよなぁ、エース達は。授業好き勝手に決められるんだもんなぁ」
 ルフィがブーイングを出せば、大人組みが笑った。
「バカめ、俺たちは通り過ぎてきたんだよ、今のお前達の時間を。俺たちの年になったら、お前等がそう言われるんだから今のうちはしっかり勉強しろ、べーんきょー! お前はもうちょっと勉強しねぇと、進級できねぇぞ!」
 ルフィの頭を押さえつけるようにガシガシとかき回せば、呆れたようにナミが溜息をついた。
 実際ルフィの成績は凄まじい。
 悪いといえばとことん悪いのに、ここぞという時は異様に良いのだ。
 あまりの落差に、本当に理解しているのかいないのか、で教師達の間でも悲鳴混じりの評価となっている。
 本人はヤマ勘が当たったとかどうとか言っているが、それだけでは語れないくらいの落差らしい。
「エースもちゃんとルフィの勉強見てあげて。でないと、本当にルフィ落第しちゃうわよ」
 ナミが遠慮なく言い切って、残っていたお茶を飲み干す。
 どっと笑いごとではないのに笑いが上がるなか、サンジが急いで片づけを始めると、そっと白い手が遮った。
 見ればロビンが笑っている。
「ここは私達が片づけていくから、あなた達はもう校舎に戻りなさい。ここの使用許可はあと30分あるから、ブルック達ともう少しゆっくりして私らは戻るわ。お弁当のお重は後で生徒会室に戻しておくわね」
 その申し出に、目をハートマークにしながらサンジが盛大に感動もあらわに頷く。
「うわーっ! やっさしぃいなぁ! ロビンちゃん!」
 教師をちゃん付けで手放しに褒めるのもどうかとその場にいた全員が思ったが、あまりにサンジらしくて誰も突っ込めない。
「あ、でも片づけはエース達にやらせればいいからね! お前等お重を壊すなよっ! 壊したら、弁償させるからな!」
 でれっとした表情を見せたかと思うと、一転エース達にどこのチンピラかと思わせる表情で脅しまじりに言う。
 本当に男と女の扱いには、天地の隔たりがある。
 が、これもまたサンジそのもので誰も何も言わない。
 苦笑した次がある面々が立ち上がると、まだ弁当を食べ途中のブルックが、うやうやしくサンジにお弁当の礼を告げた。
「こんなに美味しいお料理が食べられるなんて、なんて幸せなんでしょうか。ありがとうございます。サンジさんは良い料理人になりますね」
「当然だろ、こいつはコックだ」
 その礼に、ふわぁと欠伸混じりに応えたのはゾロだ。
 え? と全員が見つめる中、自分が何を言ったのかも理解していない様子で、しかしそれがさも当然だといわんばかりにゾロは立ち上がる。
 ここにいる誰もがゾロとサンジがどんな仲なのかは知らない。
 二人ともまったく自分達のことを教えようとはしないからだ。
 いつもいつも本気の喧嘩と罵詈雑言の嵐で周囲を翻弄しつつも、けれどこういう何気ない所で、二人がとてもお互いを知り尽くしているような関係性を覗かせる。
 思わずどういうことかと見比べてしまうのは無理もないことだろう。
 だが、二人はそれを当たり前のこととして受け流して、それ以上を詮索すらさせてくれない。
 どういう仲なのか。
 でも、芯の部分では絶対に仲が良いことだけは分かる。
 本当は、それだけでいいのだと、ここにいる者達は理解しているのだ。…けれど、気になるものは気になる。
 しかし二人は全くそれらを無視し、ゾロに至っては自分が言った言葉すら忘れたように硬直した周囲を無視して大きく伸びをした。
「…ここで昼寝できたら最高だろうな」
 なんてことない風に天を見上げる。
 大きな枝が空を覆い、葉陰から今日の青空を透かしたそこは、本当に美しい緑と青と輝きのコントラストを見せている。
 思わず全員が空を見上げた。
「んじゃ、今度は、全員で昼寝の為に集まってみるか?」
 いたずらっぼく告げたウソップに、何故か全員が真面目に頷いた。
 この場所を確保するのに、どれだけ大変だったか。それが分かった上で、それでもそう思ってしまう程にこの場所は心地良いのだ。
「なら、計画また立てよう」
 エースがなんてことないように言えば、おう、と簡単にいらえが返る。
 ゾロの口元が酷く楽しそうに持ち上がった。
 これから、があるというのが、妙に楽しい。
「…ありがとよ。いい誕生日だった」
 そう告げれば、全員からニッカリといたづらっぽく笑いが戻ってくる。
 ゾロの為に動いて、全員がとても楽しかったのだと分かる笑顔。それが一番の、もしかしたら自分へのプレゼントかもしれない。
 そう思いながら、ゾロは緋毛氈から真っ先に下りた。
「んじゃ、後よろしくなー!」
「お願いしまーす」
 口々に言いながら、中・高組みが各校舎に向けて歩み出す。
 周囲にいた生徒達も、既に銘々校舎に戻って行っている。最後まで、片づけに後ろ髪を引かれていたサンジは、ロビンが頷いてみせるのに、小さく照れ笑いをして思い切ったように立ち上がった。
「美味しいお弁当をありがとう」
 ブルックとロビン、エース達が揃って言うのに、サンジは小さく笑って片目を細めた。
「おう、美味かったろ? 今日は特別料理だったからな」
 自信満々にサンジは胸を張る。
「ゾロの為の料理だったからか?」
 エースがニヤニヤと笑って言えば、サンジはバカめ、と本気のしかめっ面を見せた。
「誰の為でも一緒だ、祝いの料理ってのは、そういうもんだろうが」
 確かに今日の料理を食べた全員が、美味しいと感じる料理だった。
 誰かのためだけでなく、祝おうとする人達までも含めて幸せになれる料理。
 それこそがサンジが作る料理の料理足るものなのかもしれない。
「…本当に、良い料理人ですね」
 目を細めて囁いたブルックの声が聞こえたのかどうか、サンジは立ち上がると先に行くゾロ達の後を追って走り出す。
 軽やかな足取りはすがすがしいまでに早い。居残った者達の前でサンジはすぐに合流してしまう。
「でも絶対、ゾロの為の料理だから美味しいってのはあると思うんだよなー」
 ゴロリと横になったエースに、含み笑いを漏らしたロビンが同意した。
「そうね。でも、案外…今日の料理は本当に私達の為だったのかもしれないわよ」
 お重を纏めながらそう言うと、手伝い出したフランキーが、ふうん? と促すような相槌を打つ。
「だって、いつもサンジはゾロの夕食を作っているのでしょう?」
 ああ、と納得いったように全員が頷いた。
 そうだった、今日を特別にせずとも、サンジは毎日ゾロに料理を作っているのだ。
 それこそ、ただ、ゾロの為に。
「今日の夕飯は、いったいどんなものなのかしら? きっと、もの凄く、ゾロのことを考えた料理になるんじゃないかしら」
「……贅沢だな」
「羨ましいぜ、ロロノア」
「ヨホホホホホ、若いっていいですねー!」
 ブルックの言葉に、思わず顔を見合わせ、三人は納得して歩いて行く子供達を見送った。

「うおっ、時間ねぇ! 走るぞ!」
 予鈴から本鈴までの時間の余裕は少ない。
 時計を確認したウソップが大慌てで走り出す前に、中学生組みは走り出していた。
「またなー!」
「おう!」
 走り出しながら、サンジはゾロの隣にすっと近づく。
 そうして、チラリとゾロを見ると、仕方なさそうに囁いた。
「…ブルックに弁当やっちまったから、後でお前の家にいく」
「冷蔵庫空だ」
「使ったからな、おれが。買い出ししていく」
 食費を渡したら、多分この男は怒るのだろうな、とゾロはさすがに気付いた。なら、渡すべきものは別にある。
 胸ポケットを軽くさぐり、ゾロは何一つ飾り付けられてもいない銀色の物を取り出した。
 あっさりとサンジへと投げて寄こせば、過たず彼は受け取った。
「やる」
 小さなそれは裸の鍵。
「しゃーねぇ。お前の誕生日だしな。もらってやる」
 偉そうに言う男が笑うのをゾロは眺め、頷いた。
「そうしろ。おれの誕生日だからな」
 吹き出したサンジは、そのまま足を速めた。ウソップを軽く抜き去り、「お先!」とトップスピードで駈けていく。
「ずりーぞー! サンジー!」
 叫ぶウソップをゾロも追い越し、上がる叫びを聞き流して走り去る。
 今日の授業が済み部活を終えて戻ったら、そこにはサンジがいるのだろう。
 偉そうに笑いながら、きっと小さな座卓の上には昼の弁当に負けないくらいの料理が並んでいるはずだ。
 貰えるものは、全部貰う。
 そうしても良い日なのだというのだから、躊躇うものか。 
 贅沢な1日だと、やっと理解して。
 ゾロは数時間後の未来を確信して、全知の樹が見守る校舎へとサンジと並んで飛び込んだ。 

終了


 ☆ ☆ ☆ ☆

他愛ない話でしたが、一応ゾロ誕仕様で…(;^_^A
結局周囲関係なく、楽しんでる二人なんだろうな、と。
長々お付き合いありがとうございました。
そのうち纏めてゾロ誕部屋にでも持って行きます…あそこ何も入ってないしね…orz

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気持ちを押し上げてくれる一押し、本当にありがとうございましたーvv

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ほしづき さき
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活字がなくては生きていけず。
日本文化にひたりまくり。
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どおりで、落ちた先は緑髪の剣士よ…(笑)
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素材元:十五夜  加工/構成:ashi